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絶滅の人類史 / 更科功

人類だってただの生物なのだから、環境が悪くなれば絶滅するのである。
(p.155)

ポイント

・人類は強かったから生き残れたわけではない、むしろ自然界で生き残るには適さない生態
・直立二足歩行:手で食べ物を運んだ、協力する集団をつくっていた
・牙がない:弱い、戦っても勝てない、殺し合いもない
・何よりも重要なのは、子供を沢山産めたこと

賢いから絶滅しなかったわけではない

人間は他の生物より賢いから生き残れたのか。猿人類や人類との生存競争を、なぜホモ・サピエンスは勝ち抜いたのかと考えるとき、賢さを理由に挙げてしまう人が多いと思います。しかし、ホモ・サピエンスより脳が大きかった種も、結果として絶滅しています。

絶滅しなかった最大の理由は、子供を沢山産むことができたからだと本書では述べられています。

私たちは妊娠、出産、子育てそれぞれのスパンが短くても良いのです。そして、ある程度の年でも子供を作ることが可能です。子育てに関しては長いという話になりそうですが、1人の子供に乳をやる期間だと考えてください。

ホモ・サピエンスは、年子を産むことが可能です。現代の先進国では生き方の構造自体が変わっていますが、基本的に発展途上の状態では子供を沢山持つ、持っていた家庭がほとんどです。

それには生存率や労働力という理由があります。太古の昔からホモ・サピエンスは多産であり、それが種の存続に繋がったのです。何でも選り好みせず食べ、子孫を多く残す。我々が生き残った理由の根本は、知的というには程遠いワイルドさに溢れています。

遺伝子の残し方も興味深いです。アフリカから出たあと、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人との交雑が確認されています。

ネアンデルタール人と遺伝子により、より寒いところでも生き残ることが可能になったというのです。しかし私たちの祖先はネアンデルタール人の遺伝子の強みを自らに取り込む一方で、彼らに遺伝子をあまり渡していないそうです。自分たちは効率よく種を発展させ、適応できる場所を増やしていくことをしていたのです。

本書を読んで、ヒトが絶滅しなかった巧妙さ、タフさを感じずにはいられません。人は頭が良かったから生き残ったと考えるのは思い上がりかもしれません。先祖が必死に生きた過去は、もっと壮絶で泥臭いものだったのでしょう。

約3行感想

絶滅を逃れた理由と同じくらい印象的だったのは、学者の文の書き方です。どこまでも言葉の欠陥がないように、隙を作らない文章を書かれているのだと感じました。