身を切る恋に心が悶え震える本
二番目の恋、身分違いの恋、同性愛。叶わないとわかっていても、どうして人を好きになることをとめられないんだろう。なぜさまざまな愛情のかたちは認められないのか。救いようのない孤独に苦しむ主人公とともに、切なさに打ちひしがれるお話に身を投げてみませんか。
『白いしるし』西加奈子
- 止められない恋 ★★★★
- 完全感覚度 ★★★★
- 正直な歪み度 ★★★★
- 全190ページ
32歳の画家、夏目は傷つくのを恐れて誰かにのめり込む恋愛を避けて生きている。そんな時間島の1枚の絵に心奪われ、根こそぎ彼に惹かれてしまう。抗いようのない気持ちで夏目は彼に近づくが、間島には分身のような恋人がいて、決して彼女のものにはならない。分かっていても避けようもなく更に気持ちは募っていって、、。
心が掴まれる以上に、全身が痛みに耐えるようなそんなしびれを伴う作品。会わないようにしようと理性は言っているのに、触れたいという情動を抑えられない恋。こんなに身も心も疲弊していてもなお、相手のことを好きでいてしまう、そんな救いようのない素直さと、愛情が本来持つ歪みを描いた1冊です。
気になる方は▷白いしるし (新潮文庫)『ナラタージュ』島本理生
- 悲痛な恋度 ★★★★
- あと引く小説度 ★★★★
- 大人への憧れ度 ★★★☆
「お願いだから私を壊して、帰れないところまで連れて行って見捨てて、あなたにはそうする義務がある」
大学2年の泉は、思いを寄せていた高校教師葉山から突然の連絡を受ける。その内容は、泉の出身であった演劇部の手伝いで、泉は久々の彼との再会を果たすことになる。そこで自分の恋心を再認識するとともに、葉山にとっても自分の存在はただの1生徒ではないのではと気づくことになるのだが、、。
近づけそうでも近づけない、大切であっても選ぶことはできない。ここまで命がけで愛した人にもう会わないという事実を、確かめながら別の人と日常を歩んでいく。大切だと伝えてしまうことが、責任をとれないならただ相手を傷つけてしまう行為なんだと、甘えなんだと突きつけられる一方で、それが生きる糧の限りなく美しい記憶になることもある。その重さに切り込まれるような長編小説です。
気になる方は▷ナラタージュ (角川文庫)『きらきらひかる』江國香織
- あふれる愛情度 ★★★★
- 脱・常識度 ★★★★
- 透明な表現度 ★★★★
- 全201ページ
10日前に結婚した笑子と睦月。だが妻はアル中、夫はホモで紺という恋人持ち。2人はお互いに全てを受け入れあって、セックスのない夫婦関係を始めたはずだったのだが、、。
笑子と睦月、2人の間に男女の関係はない。そんな夫婦なのにお互いへのやさしさが、健気すぎて胸が一杯になるほど溢れている。なぜ「普通」が求められるのだろう。ここはこんなに愛情の満ち足りた世界なのに。傷ついても大事な人から目をそむけずにはいられない、そんな既存の枠組みを超えた愛情に胸を打たれる1冊です。
気になる方は▷きらきらひかる (新潮文庫)『雷桜』宇江佐真理
- 純愛度 ★★★★
- 時代の不条理度 ★★★★
- 感涙度 ★★★★
- 全378ページ
江戸の御三卿・清水家の当主斉道は幼い日のトラウマから心に病を抱えていた。一方江戸から3日を要する村では庄屋の娘である遊が11年前の雷の日に何者かにさらわれたまま、姿を消していた。その後遊は狼少女としてぼろぼろの姿で村に帰り、あるきっかけで斉道と心を通わせ始めるが、、。
この時代には、こうも定めに従って生きていかなくてはならなかったのかと、不条理さに苦しさを覚える作品。しかし遊が運命に翻弄されながらも、必死で生きていく姿は非常にたくましく美しいものです。苦しみの中でも愛し抜くということの尊さに心洗われるお話です。
気になる方は▷雷桜 (角川文庫)いかがだったでしょうか。みなさんの心に寄り添うとびきりの恋愛小説が見つかれば幸いです!
別のテーマでもおすすめの本をまとめているので、是非次の1冊を探してみてください!