子供時代の親との関係で、それからの人間関係の築き方や性格にも変化をもたらしてしまう。現在注目されている「愛着障害」が、発達にも密接に関わるとご存知でしょうか。今回はそんな愛着について詳しくまとめていきます。
目次
愛着障害とは
それぞれの人間は子供時代に、母親などの身近な人との愛情表現や行動から特有の愛着パターンを持つようになります。何らかの状況で愛情を深める行動が絶たれることによって愛着障害が引き起こされると考えられています。
愛着がどれだけ安定しているかは、対人関係や恋愛関係以外にも、仕事や趣味、子育てなどの個人の生き方、またストレスへの耐性や健康にまで影響を及ぼすと言われているのです。
「愛着障害」っていうと、死別やひどい虐待とかのケースが思い浮かぶけれど…
従来は孤児となった子供や、虐待やネグレクトなどを受けた子供に起こりやすいとされていました。しかし実際は、実の親に育てられた子供の3分の1が不安定型の愛着を示すとされているのです。つまり、一見して問題のないように見える家庭でも起こりうる問題といえます。幼少期に身についた愛着パターンは、7〜8割の確率で大人になっても変わりません。そして、成人の3分の1も不安定型の愛着スタイルを持っていると言われています。
愛着スタイルを決める時期・ひと
対象となる人
愛着は特定の人との間に結ばれることによってその効果を発揮します(愛着の選択性)。つまり沢山の人がたくさんの愛情をかける愛情の総量の問題ではなく、その子供にとって誰か特別な人物が継続して安定的に愛情をかけることが重要です。そうやって特定の愛着対象と子供との間にできる絆を形成していきます。
一番大きな影響力があるのは多くの場合母親です。しかし、例え養子に出された子供でも、愛着形成の時期に適切な愛情を注がれることによって安定した愛着スタイルを得ることもできます。また、母親のみでなく、父親など他の人物とも個別に愛着スタイルは育まれており、それぞれが個人に影響を与える可能性があります。研究によると、ほとんど遺伝的な要因よりも環境要因で決まるとされています。
重要な時期
生後6ヶ月くらいまでは、あかちゃんが完全に母親を見分けられるようになっていないため、ここで愛着の対象が変わってもその後よりは重大な影響にはならないそうです。
「臨界期」と言われる生後6ヶ月から1歳半くらいまでが、最重要であると言われています。この時期には、母親(養育者)は十分なスキンシップで子供に接し、子供が求めるものに対して速やかにこたえてあげるということが大切です。
こどもの「安全基地」になる
こうして愛着の対象が、子供に安心と安全を感じさせることができる「安全基地」であることが、その後の成長に影響します。安全基地を持つ子供は、外の世界にも積極的に挑戦することができ、好奇心や自信を育みます。
親から守られている、愛されている、という実感を持てるっていうことが、子供にとって大切なのね!
一方、子供が出す助けてほしいというサインに、愛着対象が反応しなかったり、反応が不安定である場合があります。このように愛着形成に問題があった子は、安心感や信頼感というものを知ることがありません。安全基地を持たずに育った場合、その空白を埋めることは非常に困難と言われています。
また、親との死別や親からの虐待のケースもあります。親の存在を失ってしまうという前者の場合は、初めは現実に抵抗して高うつ状態になり、その後その事実事態を封印して愛着を切り捨てる段階に達します。これを「脱愛着」といいます。親からの虐待を受けた場合は、子供は自分にとって生きるために不可欠な親を責めることはせず、自己否定や罪悪感を感じるようになります。そして成長後も、親に認められたい、かまわれたいという思いに過度に執着し続けてしまうのです。
子供の4つの愛着パターン
では、実際にどのようなパターンが見られるのでしょうか。今まで、不安定型と言っていたものの中にも3つの種類があります。4つを紹介していきます。
安定型
母親が安全基地としての役割をきちんと果たし、子供との信頼関係を築けている状態です。この場合、子供にストレスがかかっても、子供は泣くなど一時的に不安を示すが、母親の存在が現れると素直に甘えることができます。子供の約6割がこれに分類されるそうです。
回避型
安全基地を持たずに、ストレスがかかった場合にも愛着行動を示さないパターンです。その後反抗や攻撃性が現れることがあるという特徴があります。児童養護施設で育った子や、放任されて育った場合に見られやすく、約1.5〜2割の子供にあたるそうです。
抵抗・両価型
母親の安全基地としての役割が不十分で、愛着行動が過剰に起こるパターンです。親の反応がランダムで安定しなかったり、過干渉だったりする場合に引き起こされ、約1割ほどに見られるそうです。その後に不安障害になる可能性も高い上、いじめに合うリスクも高いとされています。
混乱型
回避型と抵抗型の両方の性質を持ち、それがランダムに現れる特徴があります。親から虐待を受けるなど、精神状態が不安定な環境に育つことで、親の行動が予測不能であるために、子供の行動もおなじく予測できないものになっています。
愛着障害が引き起こす典型的な問題
ここまでは様々な愛着パターンとその要因について見てきましたが、不安定型の愛着を持つと実際にどのような問題が生じてしまうのでしょうか。たくさんの事例はありますが、その一部を見ていきましょう。
みなさんも、自分自身や身の回りの人に思い当たることがあるか一緒に考えてみてね
人間関係を築くのが苦手
人と適度な距離をとり、人間関係を持続させることが不安定型に分類される人たちにとっては難しいものになります。回避型の人は、他人と親密になることを避けるため、そもそも信頼関係を築く距離感になることが困難です。一方で不安型の人は過度にプライベートな部分にまですぐに入ってしまうため、関係がすぐに恋愛関係や肉体関係になってしまいます。
ストレスに弱い
ストレス耐性が弱い傾向があり、ネガティブな反応が誘発されやすいです。典型的なものには、反撃行動とうつの2種類があります。前者は、ストレスがかかったときに、自分に対する攻撃だと感じて他人や自分に傷を負わせるというものです。後者は、ストレスを自分の内側に抱え込んでしまいます。
過去への執着
自分が傷つけられた経験を引きずる傾向があります。問題が発生したときに、他者を過剰に否定したり、肉体的・精神的に痛めつけたりする行動に出やすいそうです。また、怒りだけでなく他の感情にもとらわれやすい特徴があります。また、過去の出来事・人物と重ねて極端な判断を下してしまう場合もあります。
発達に影響
ここまでにも書いてきたように、行動や精神のコントロールが苦手な子供が多いです。他者と協力関係を築くことも得意ではないため、社会的な力が低いとみなされてしまう場合もあります。また、安全基地を持たないため、好奇心や自己肯定感が低いこともあります。発達障害と診断される場合もあり、発達と愛着の問題は複雑に絡み合っています。
依存症傾向
安全基地を持たず、ストレスに弱い不安定型の人は、逃避的になにかに依存してしまう傾向が強く見られます。アルコールや薬物といった「もの」だけでなく、買い物や食事、性行為などの「快楽行動」への依存も見られます。また、万引行為なども症例の一つとして挙げられます。
大人の3つの愛着スタイル
これらの傾向は子供だけでなく大人にも引き継がれるものです。大人の愛着スタイルについても見ていきましょう。愛着スタイルは、子供の頃に見せていた愛着パターンの影響を受けることが多いと言われます。
安定型(Sタイプ)
人間関係における信頼関係を安定して築けるタイプ。相手から嫌われることを心配したりしないため、素直に助けを求められます。パートナーと親密になるのも自然なことで、愛情深い人が多いです。だいたい5割くらいがこのタイプです。
また、なにか問題があったときにも、相手のニーズを察知して寄り添うことができるため、パートナーとの課題を解決しやすいタイプでもあります。不安定型のタイプの人達にも良い影響を与えるとされています。実際に、安定型と不安定型のカップルの場合、不安定型同士のカップルより問題が起こりづらいどころか、安定型同士のカップルと同じくらいの確率で問題が少ないことが分かっています。
回避型(Vタイプ)
人とは距離をとることを望むタイプ。自らの自由が大切で、他人にも組織にも縛られないことが第一です。冷めている部分が多く、問題があったら執着せずにすぐに去ろうとします。そのときに、相手の気持ちに鈍感で人を知らずに傷つけてしまうことも多いです。2.5割くらいがこのタイプと言われます。
人と近づきすぎることを自分を守るために避けるため、パートナーがいても心理的には一定の距離を保つ傾向があります。その際、パートナーの欠点ばかりが気になる、相手に気がある素振りを見せた後冷たくあしらう、一緒に寝ない、将来のない関係にはまるなどの行動が見られます。
不安型(Nタイプ)
愛されたい、認められたいという欲求が非常に強く、拒絶されることを過剰に恐れるタイプ。抵抗型・両価型の愛着パターンに対応しています。相手から嫌われるのを怖がるあまり、人の顔色ばかり伺うという特徴があります。そのため他人の感情に対して敏感ですが、感情の読み間違いも多いです。自分自身に自信がなく、他者に対しても自分を傷つけるのではないかという不安を抱えていることが多くあります。2割くらいがこのタイプと言われます。(残りの0.5割はNタイプとVタイプの両方(混乱型)の性質を持ちます。)
不安型は親密な関係にも陥りやすく、恋愛関係にもなりやすいです。その際には依存関係を望み、他のことが手につかなくなる、相手と連絡が取れないと怖くなる、相手の気を引くための行動を取る、その相手を失ったら自分には恋愛のチャンスは来ないなどと考えます。
ここまで読んでみると、子供の頃の性質がおとなになってからも受け継がれているのがわかるようになってきた、、!
愛着障害の克服は可能か
ここまで見ていくと、愛着障害を抱えた人々の精神的な満たされなさが人生にも大きな影響を及ぼすことは明らかです。では、愛着形成の時期に恵まれた環境にいられなかった子供は、もうそれを克服することはできないのでしょうか。おとなになってから乗り越えることは不可能なのでしょうか。
実際には、4年間のうちに25%もの人が無意識でも愛着スタイルを変化させているという研究もあるそうです。しかし、これは回避型から不安型への変化なども含まれるため、安定型になる人口とは言えません。愛着障害を乗り越えることは、その程度の深刻さにもよりますが、簡単とは言い難い道のりのようです。
安全基地となる存在と共に乗り越える
愛着障害を乗り越えるためには、大人になってからでも安全基地として信頼できる存在は不可欠のようです。そのために必要な安全基地の条件は以下の5つです。
①絶対的な安全の保証
②共感性が高いこと
③相手が求めているときに適切に応じる応答性
④一貫して上記の対応ができる安定性
⑤「何でも話せる」相手であること
やっぱり信頼できる関係を誰かと築くってことが1番大切なことなんだね
この安全基地はパートナー、家族、医師などの場合がありますが、途中で存在を喪失したりするとさらに傷が深くなって逆効果の可能性があります。長期間かかったとしても共に乗り越えられる存在でなくてはいけないのです。
また、この安全基地を持った上で、過去や傷ついた経験を振り返ること、社会的な役割を得ること、愛着障害の要因にも向き合い、赦すことといったプロセスを乗り越えていきます。
終わりに
子供の頃に出来上がる「愛着パターン」がこれほどまでにその人の人生に影響を与えてしまうことに、驚かれた方も多いのではないでしょうか。実際にこのような好悪道に悩む本人の方以外にも、子育て中の方、またパートナーにこのような行動が見られる方にとっても愛着障害は大きな関心事項だと思います。
自分自身の健康的な生活のためにも、また大切な人の健全な関係構築のためにも、学ぶ意味のある内容だと感じました。
参考文献
・『愛着障害 子供時代を引きずる人々』岡田尊司(光文社新書)
今回書いた愛着障害について、要因から特性、克服までを研究内容と実例の両方から丁寧に説明されています。夏目漱石や川端康成、ヘミングウェイなどの歴史的文豪達やオバマ大統領・スティーブ・ジョブズに至るまで、彼らが抱えた問題を愛着の視点から紐解いていきます。克服についての実践やその困難さと成功例についても迫っています。
・『異性の心を上手に透視する方法』アミール・レイバン/レイチェル・ヘラー(プレジデント社)
大人の愛着スタイルの観点から恋愛関係を解き明かしている本です。なぜうまく行かない恋愛にハマってしまうのか、毎回同じようなあわない相手ばかり選んでしまうのかには愛着に関わる理由がありました。安定型・不安型・回避型のそれぞれが良好な関係を築くため、意識すべきコミュニケーションの方法についても書かれています。
また別記事では、不安型について実例からより深くその特徴を探っていきます。興味のある方はぜひ読んでみてください!